第12回読売福祉文化賞 受賞6団体を表彰(2014年12月)
新しい時代にふさわしい福祉活動を実践している団体などを顕彰する「第12回読売福祉文化賞」(読売新聞社、読売光と愛の事業団主催)の受賞6団体が決まり、12月5日に読売新聞東京本社で表彰式が行われました=写真=。各団体の代表者らにトロフィーと活動支援金として100万円が贈られました。受賞団体の活動内容を紹介します。
【一般部門】
NPO法人「エスニコ」 (札幌市)
医療通訳ボランティアを養成・派遣したり、英語や中国語、韓国語など八つの言葉の訳語をつけた問診票を作ったりして、外国人の医療支援に取り組んでいます。メンバーは、医師や看護師、外国人留学生など約120人。2001年から活動しています。
代表理事の芦田科子さん(61)は「知人の中国人が入院する時、病院で意思疎通できるかどうか不安を抱いていたのを見てから、医療現場での支援を通して、外国人住民と互いの文化を理解し合うよう努めてきた」と振り返ります。12年に札幌弁護士会の「人権賞」と北海道地域活動振興協会の「功労賞」を受賞するなど、その活動は地域で高く評価されています。
「外国で暮らした自分の経験から、症状や要望を外国語で伝える難しさや、病気になった時の不安はよくわかる」と話すのは、メンバーで看護師の金沢絵里さん(37)。米国で約4年半間暮らした経験から、活動に参加しました。夜、仕事帰りに集まり、外国人留学生から英語を教わったり=写真=、検査を受ける外国人に通訳したりしています。
芦田代表は「地道な活動が評価されて良かった。培ったノウハウを生かし、医療現場で役立つ多言語の用語集を作ることも考えています」と意欲を見せています。
NPO法人「モンキーマジック」 (東京都武蔵野市)
代表の小林幸一郎さん(46)は、28歳で目の病気を患い、徐々に視力を失いながらもクライミングを続けてきました。障害者の世界大会での優勝経験もあります。「自分の経験を生かし、多くの視覚障害者にクライミングの楽しさを伝えたい」と、視覚障害者向けのクライミングスクールなどを始め、2005年にはNPO法人を設立しました。
12年4月からは、東京・高田馬場の人工壁で月1回、月曜夜に「マンデーマジック」というイベントを開催しています。障害者が健常者と組んで、ホールドと呼ばれる突起を使って登ります。「12時、近め、サイド(横から)」とホールドの方向や距離、形を知らせてもらい、登り方は障害者が自ら考えます。
口コミで広がり、毎回45人の定員は満員に。参加者は学生から50歳代までと幅広く、毎回参加する全盲の志賀信明さん(55)(埼玉県入間市)=写真、左=は「壁を登るという目標に向かい、一緒になって楽しめるのが魅力」と打ち明けます。
土曜夜の「サタデーマジック」も今年6月から茨城県つくば市で始めました。小林さんは「一緒に遊べば、自然に理解し合える。つながりの輪が広がっていくのがうれしい」と話しています。
「がん 心のケアの会」 (名古屋市)
がん患者や家族が抱える悩みに耳を傾ける「がん心のケアほっとライン」(052・836・7565)を2000年5月に開設しました。
アパートの一室に電話を置き、毎週木・金曜の午前10時~午後4時、ボランティアの聴き手2人以上が待機します。今年は4回目の聴き手養成講座を開催。新たに10人がボランティア登録し、現在は13人が活動しています。これまで受けた相談は約2300件に上ります。
乳がんの経験もある代表の毛利祐子さん(74)は「命に関わる重い話なので、相談者に寄り添い、襟を正して聴いています」と話しています。米国での研究成果を翻訳したことなどから、患者や家族には誰かに話を聴いてほしいという要望があるとの思いを強くしました。「言いたいことをありのままに受け入れることが大切」。互いに名乗らず、匿名性を担保することで、周囲には言えない「本音」が話せるといいます。
最初は、「絶望のどん底。死にたい」と話していましたが、本音を話し続け、3年後には「今は幸せ」と語るようになった人もいました。
毛利さんは「がん患者には心のケアが必要なことを、もっと知ってほしい」と訴えています。
【高齢者福祉部門】
「網地島(あじしま)ふるさと楽好(がっこう)」 (宮城県石巻市)
牡鹿半島の先端近くに浮かぶ網地島に、仙台市の児童養護施設で暮らす子供たちを招き、豊かな自然の中での生活を体験してもらっています。
先生は島の漁師や主婦たち。岩と岩の隙間に、竹に針のついた糸を垂らす伝統漁法でアイナメやメバルを釣ったり=写真=、シーカヤックに乗ったりと、未知の体験に子供たちは目を輝かせて喜びます。
高齢化が進み、子供の姿が少なくなった島を活性化させたい――。そんな思いを抱いた代表の桶谷敦さん(74)を中心に2007年、仙台市内4つの児童養護施設の子供たちを島に呼ぶ活動を始めました。東日本大震災で中止になった11年を除き、毎夏、約40人の子供を招いています。当初は「静かに暮らしたい」などと反発する島民もいましたが、子供たちの元気な姿を見るうちに変わっていったといいます。
今では、海を一望できる山に登りやすいように道を広げたり、流しそうめん大会を開いたりと、子どもたちが楽しめる島にするためのアイデアを出し合い、実行するまでになりました。桶谷さんは「島民が島のことを考え、活動するようになった。何より自分たちが楽しい」と話しています。
「淞北台(しょうほくだい)いきいきライフを推進する会」 (松江市)
松江市北部の高台に造成された淞北台団地の住民で結成し、2001年4月に活動を始めました。分譲の始まった1967年頃に競って入居した30~40歳代が、今では70、80歳代となりました。坂の上り下りが大変で出歩くことも減ってきました。
高齢化の進む地域で、自治会として「何ができるか」を模索。議論を重ねた末、中長期的な課題に取り組もうと組織したのが、推進する会でした。短期間で役員の交代する自治会では担いにくい高齢者福祉事業を分担する目的でした。
会が取り組む3本柱は、①生きがいづくり②要援護者への支援③外部福祉団体との連携です。生きがいづくりとして、「男の料理教室」=写真=や「手わるさ(手芸)の会」など18種の趣味教室・同好会への参加を呼びかけます。医療・介護をテーマにした健康講座も好評だということです。一人暮らしのお年寄りの交流会も企画し、安否確認にも乗り出しました。さらに、外部の福祉団体と協力し、草取りや庭の手入れなど、個人個人のニーズにも応えています。
高橋博会長(81)は、「超高齢化社会を迎える今、ここからが正念場。安心して、元気に楽しく生き抜くための仕組みを考えたい」と話しています。
NPO法人「いきいき百歳応援団」 (高知市)
高知市の高知大神宮に11月中旬、32人が集まりました。うち80歳以上が26人。体力に合わせて220グラムの重りを数個、腕や足に巻き、腕を曲げ伸ばしたり、いすを支えに立って足を上げたり。準備・整理体操を含め40分かけて体を動かしました=写真=。
101歳で、8年間参加している東條松枝さんは「皆に会うのが楽しみだし、来るのが習慣になっている。体が動くうちは頑張らないとね」と背筋を伸ばしました。
介護予防を目的に、高知市で2002年に始まった「いきいき百歳体操」。今では市内315か所で参加約7000人、全国では1500か所に広がりました。 週に1、2回集まり、おしゃべりを楽しみながら体操をします。連絡なしに欠席した人を心配した仲間が、家で倒れているのを見つけ、命が助かったこともあるといいます。高齢者を見守る役割も果たしています。 活動の活性化と継続を目的に、11年に設立されたのが応援団です。
会場ごとに異なる活動ぶりや元気な人を紹介する「いきいき百歳新聞」を年3回、1 万3000部を第5号まで発行しました。
応援団理事の池田千鳥さん(74)は「休まずに来る人も多い。どんどん活動が広がって、みんな笑顔で楽しんで健康を維持できれば」と話しています。