第16回読売福祉文化賞の受賞者・団体決まる(2018年12月)
第16回読売福祉文化賞(読売新聞社、読売光と愛の事業団主催)の受賞者1人と受賞5団体が決まりました。今回は一般部門と高齢者福祉部門に計98件の応募があり、11月6日の選考委員会で受賞者・団体が決まりました。12月11日に読売新聞東京本社で贈呈式が行われ、それぞれにトロフィと活動資金100万円が贈られました。 受賞者・受賞団体は次の通りです。
【一般部門】柿島光晴さん(東京都町田市)▽障害者スキー普及講習会実行委員会(神奈川県厚木市)▽認定NPO法人大阪精神医療人権センター(大阪市)
【高齢者福祉部門】くしろ高齢者劇団(北海道釧路市)▽NPO法人りぷりんと・ネットワーク(東京都千代田区)▽NPO法人アテラーノ旭(高知市)
【受賞者の方々と記念撮影(くしろ高齢者劇団は欠席)】
各団体の活動内容などは12月11日の読売新聞で詳しく紹介されました。記事を元に各団体を紹介します。
一般部門
◆日本視覚障害者囲碁協会代表理事 柿島光晴さん 41(東京都町田市)
~視覚障害者の囲碁 復活、普及~
視覚障害者用の碁盤「アイゴ」を復活させた。アマ四段。2015年から目の不自由な子どもが通う各地の学校を巡り普及に携わる。
25歳の時、アニメ「ヒカルの碁」を機に囲碁を始めた。2年前に失明していたが、「セリフを聞くだけで面白そうだった」。近くの教室に通い、言葉を介さなくても盤上でコミュニケーションができる魅力にはまった。
数年後に参加した関西の囲碁大会で、アイゴに出会った。盤面の線が立体的に盛り上がり、目が見えなくても盤面をイメージできる。碁石の裏に切れ目があり、碁石を盤面に固定できる。使い勝手の良さに驚いた。
一方で、在庫がほとんどないことを知った。金型も朽ち、新たに製造することもできなかった。金型作りに協力してくれる業者を探し回り、13年12月、アイゴの製造再開にこぎ着けた。日本点字図書館などに委託して販売している。
「囲碁は健常者と障害者が対等にできる数少ないゲーム」と語る。碁石海岸がある岩手県大船渡市で昨年から全国盲学校囲碁大会を開催し、今年は8校から13人が参加した。「出場校を増やすためにもアイゴを広めたい」と意欲は尽きない。(立川支局・長内克彦)
【授賞式での柿島さん(左から2人目)。「碁石海岸で囲碁祭り実行委員会」の方々と】
【懇談会でアイゴの説明をする柿島さん】
◆障害者スキー普及講習会実行委員会(神奈川県厚木市)
~40回迎えるチェアスキー大会~
「障害者を白銀の世界へ」を合言葉に1975年からチェアスキー開発に着手、80年に第1回大会を開き、以来、宿の手配やスキー場との調整、講習のサポートなど裏方を担ってきた。
「実績が認められてうれしい。受賞を機に参加者がますます増えてほしい」。副委員長の村田知之さん(36)はそう言って、来年2月に福島県内で実施するチェアスキー大会のチラシを見せた。40回を迎え、スタッフも含め募集をしている。
委員は医師や医療関係者など20人。今年3月の平昌(ピョンチャン)パラリンピックアルペンスキーの金メダリスト村岡桃佳さん(21)も10年前、11歳の時に参加した。「出来たばかりの子供用のチェアスキーの試作品で滑っていました。上達が早かった」と振り返る委員の沖川悦三さん(59)は日本のチェアスキー開発のパイオニア。2人とも神奈川県総合リハビリテーションセンター研究部の研究員で、委員会の拠点もそこにある。
車いす生活になって初めての外泊先がスキー場という参加者もいて、2人は「非日常での自己管理が障害者を大きく成長させる。これからも可能性を広げるお手伝いをしたい」と語った。(横浜支局・中村良平)
【贈呈式での鈴木実行委員長(右)と村田副実行委員長】
◆大阪精神医療人権センター(大阪市北区)
~精神科患者の人権守り33年~
精神科病院の入院患者らの人権を守るための活動を始めて33年。患者本人や家族から寄せられた相談件数は年々増加し、昨年度は1000件を超えた。「退院したい」「入院費の説明をしてほしい」。スタッフら約70人が様々な相談を受け、アドバイスなどをしている。
設立は1985年11月。前年に栃木県で患者が職員らに暴行され死亡したことが明らかになるなど人権侵害が相次ぎ発覚したのをきっかけに、大阪で活動を始めた。
90年代には、大阪府柏原市の大和川病院(廃院)で行われていた暴行や虐待を追及。問題が長年見過ごされてきた教訓から、98年以降、府内の全ての精神科病院(約60施設)を訪問し、療養環境の改善を求めている。当時はベッドを仕切るカーテンがなかったが、「プライバシーの確保を」と訴え、多くの病院で改善されてきた。
府内の精神科病院の入院患者は約1万6000人(昨年6月)。近年はより多くの患者の声に対応するため、相談に応じるボランティアの養成講座も開いており、共同代表で弁護士の位田浩さん(55)は「声を上げられない患者は多い。さらに取り組みを進めたい」と意気込む。(大阪社会部・虎走亮介)
【贈呈式での細井理事(右)と上坂事務局長】
高齢者福祉部門
◆くしろ高齢者劇団(北海道釧路市)
~平均70歳の劇団 地域に活力~
「高齢者が元気になって地域を活性化しよう」と、2011年7月に5人で劇団を旗揚げした。現在の団員は8人。いずれも60歳以上で平均年齢は70歳。創作劇で扱うテーマは、特殊詐欺や認知症、嫁姑(しゅうとめ)問題など、高齢者に身近な問題を選ぶようにしている。
200人規模の小ホールのほか、「出前公演」と称して病院や高齢者福祉施設などでも上演する。入場無料で、公演回数は年間7、8回。公演が近づくと、団員は約3時間半の練習を週3回、精力的にこなす。
脚本を担当する事務局長の佐藤伸邦さん(77)は「無理なく楽しんでもらいたい」と上演が30分程度で終わるように工夫する。ほとんどの団員は演劇経験がないが、セリフを覚えて大きな声を出して役をこなし、「協力して演じることにやりがいを感じる。夢だった女優になれた」と喜ぶ団員もいる。釧路市での長期滞在中に参加した大阪市の女性は「夏だけのつもりが、冬まで続けてしまった」と明かす。
佐藤さんは「人口減少で活力を失いつつある地域で、新たな魅力を育む劇団であり続けたい」と意欲を燃やしている。(北海道支社・吉田尚司)
※贈呈式は釧路市内での公演のため欠席されました
【公演『向こう三軒両隣みな高齢おひとりさま』の様子(2017年11月)】
◆りぷりんと・ネットワーク(東京都千代田区)
~絵本読み聞かせ 健康のもと~
絵本を読み聞かせることはシニアを心身ともに元気にするとして、東京都健康長寿医療センター研究所の藤原佳典医師(56)が呼びかけ、2004年に設立された。以来、子どもたちを喜ばせるだけでなく、自分たちの健康にも役立ててきた。
東京都と神奈川県に7支部がある。メンバーは60歳以上がほとんどで約300人。90歳を超える人もいる。
滑舌良く感情豊かに読み聞かせるため、舌を回して表情筋を動かす体操をしたり、早口言葉をくり返したり。こうした練習に加え、本を選んだり外出したりと読み聞かせの準備などを積み重ねることで、記憶をつかさどる脳の海馬の萎縮(いしゅく)が抑えられるという。
認知症予防を期待する複数の自治体からは、読み聞かせボランティア養成講座の開催も依頼される。講座修了後に仲間になる人もおり、人数は増えている。
グループ名の「りぷりんと」は「復刻版」を意味し、「シニア世代が自らに再びスポットを当ててほしい」という願いが込められている。理事長の渡辺晴子さん(73)は「メンバーが楽しみながら長く活動できるようにしつつ、仲間も増やしていきたい」と話している。(東京社会部・林理恵)
【贈呈式でのりぷりんと・ネットワークの皆さん】
◆アテラーノ旭(高知市)
~凝った弁当を家にお届け~
古い木造民家が並ぶ高知市旭地区で、2009年から弁当の宅配サービスを行い、一人暮らしのお年寄りらの生活を支える。地区で保育所を営んできた理事長の山中雅子(のりこ)さん(74)が活動を始めたきっかけは、05年、地区唯一の銭湯が閉鎖されたことだった。夏場、高齢の男性が川で行水をする姿を見て、「何とかしなきゃ」と心を動かされた。
署名活動で市を動かし、地区の複合施設で入浴デイサービスを実現した。その後、民家を改修して高齢者の憩う場を開き、配食事業を始めた。アテラーノの名は「私たち」を意味する土佐弁から付けた。
昼食は40個、夕食で100個ほどの弁当を配達。利用者の好みに合わせておかずや米の軟らかさも変えており、3年ほど利用する尾崎節子さん(85)は「凝った魚料理も食べられます」と笑顔を見せる。配達は高齢者の見回りも兼ねており、食べ残しの量などから健康状態をチェックする。
スタッフは約20人。利用料を抑えているため、寄付などでまかないながらの運営だが、山中さんは「各地に広がる『子ども食堂』と連携するなどして民間福祉の輪を広げたい」と意気込む。(高知支局・今村真樹)
【贈呈式で水田理事長(左)と記念写真を撮る職員の山口さん】